葆光彩磁珍果文花瓶〈板谷波山作/〉 ほうこうさいじちんかもんかびん〈いたやはざんさく〉

工芸品 / 大正

  • 板谷波山
  • 京都府
  • 大正 / 1917
  • 素地は白色磁胎で轆轤成形し、口頸部はゆったりと高く立ち上がり、口辺を大きく外に開かせ、胴部は肩がやや強く張り、裾はわずかに外に開き下方に稜を作り出し、底には低く高台を削り出す。
     文様は器面に薄肉彫りで立体的に表し、胴部の三方に大きく窓を設け、中にそれぞれ桃・枇杷・葡萄を盛った花籠を配し、窓絵の間には大きく双鳳文・双魚文・双獣文を描き、さらに地を青海波文でうめる。口辺には芭蕉文を廻らし、口頸部は毘沙門亀甲文で埋め、七方に「壽」字を図案化した丸紋を配する。胴の上下にはそれぞれ唐草文を廻らし、一方に「富」字を、五方に「福」字をそれぞれ配した丸紋を描く。胴裾には芭蕉文を廻らす。これらの文様は藍・桃色・緑・黄の下絵具で賦彩し、高台の下端を除き全体に艶消しで失透性を有する葆光彩釉を掛け、底部中央には「波山」方白印を捺す。
  • 高51.0 口径27.7 胴径39.8 高台径21.6(㎝)
  • 1口
  • 京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24
  • 重文指定年月日:20020626
    国宝指定年月日:
    登録年月日:
  • 公益財団法人泉屋博古館
  • 国宝・重要文化財(美術品)

明治時代において本格的に美術教育を受けた後に作陶に進んだ最も初期の陶芸家であり、帝展の工芸部設置に尽力し、近代陶芸の指導者として先駆的役割を果たした板谷波山(一八七二-一九六三)の大型花瓶の作品である。地文の青海波文や毘沙門亀甲文、窓絵の花籠などがきわめて精緻に表され、窓絵に配された桃・枇杷・葡萄の花籠図様も確かな構図により堅実に表現される。これらの文様に賦彩された釉下彩の藍・桃色・緑・黄の絵具も見事に発色し、全体に掛けられた葆光彩釉もしっとりとした潤いをたたえて幻想的に器面を包み込み、板谷波山の陶芸を如実に体現している。また葆光彩磁は、薄肉彫文様が色彩と効果的に一体化するように板谷波山が創出した釉薬技法であり、色ごとに防染剤で覆いつつ液体顔料を定着させ、艶消しのマット調失透釉を掛けたものである。包み込み、境を曖昧にし、うっすらと光沢があるという「葆光」という名称どおりに、本作品のような葆光彩磁では、多彩な色彩で彩られた釉下文様が淡いベールに包まれたような独特の効果を発揮している。
 本花瓶は大正六年第五七回日本美術協会展に出品し最高賞である一等賞金牌を受賞した、名実ともに板谷波山が日本陶芸界の頂点に立ったことを示す記念碑的な作品であるとともに、板谷波山の陶芸を最も代表する作品である。展覧会出品直後に住友家により購入された。

葆光彩磁珍果文花瓶〈板谷波山作/〉

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