これは琵琶湖の湖南、草津市に分布するサンヤレ踊りである。草津市内の下笠、矢倉、志那、志那中、志那吉田、片岡、長束に伝承されており、五月三日のそれぞれの神社の祭礼の時御輿【みこし】に随行するなどして踊られている。
この踊りは少年や青年などが楽器を持って簡単な踊りを行い、その周囲を笹や扇子などの採り物を持ったものがこれを取り囲み囃【はや】し歌うもので、リズミカルに短い詞【ことば】を繰り返す歌詞のなかに「サンヤレ」という囃子詞【はやしことば】があることからこれが踊りの名称となっているものである。踊り手の持つ楽器は、太鼓、笛、摺鉦【すりがね】、羯鼓【かつこ】、摺【すり】ササラ、小鼓などからなり、下笠のサンヤレ踊りの場合これらの楽器のほかに鉦(ショウモン)がつくなど最も豊富である。踊りは、踊り手一行が二列縦隊で進行し、踊り場に至るとその両列が向かい合いとなったり、コの字形に居並んで行われる。その踊りの列の中央に太鼓打ちと太鼓受けが位置し、太鼓受けが太鼓を持って逃げるようにし、これを太鼓打ちが追いかけて打つ。
このサンヤレ踊りは、室町後期から近世初期にかけて全国的に流行を見た風流囃物【ふりゆうはやしもの】と楽器構成などが類似するものであり、下笠の踊り子の衣裳のなかに貞享五年(一六八八)の墨書銘をもつものがあるなど古風を伝えている。芸能の変遷を示し地域的にも特色をもった重要な民俗芸能である。