景鶴山、大白沢山、日崎山、至仏山、菖蒲平山、桧高山、大江山、燧岳等標高2000メートル内外の諸峯に囲まれた盆地で、ここに燧岳熔岩流に堰止められて生じた尾瀬沼と尾瀬ヶ原とがある。
尾瀬沼は海抜1665メートル、わが国湖沼中最も高地に位し、その周囲は濕原をなしている。沼は沼尻川によって尾瀬ヶ原に通じる。尾瀬ヶ原は海抜約1400メートル、東西5キロメートル、南北2キロメートルにわたる広大な濕原であって、その泥炭層は一般に厚く、変化がある。この大きく波状に高低をなして発達した高層濕原には大小各種の池塘が散在し、内に浮島もあって、そこに発達した濕原植物や沼沢植物の群落は壮麗であって、濕原内を蛇行する川に沿う拠水林や濕原周囲の天然林と相和して高山地帶固有の壮大な景観を呈する。
濕原にはこの地特有の植物やわが国稀有の種類が少くなく、またあるものは分布の限界を示している。さらに昆虫類には特に北方系のトンボ類が著るしく、貝類その他にも珍種が多い。なお、この池沼によってカモ類及び小鳥類が繁殖するなど尾瀬ヶ原の生物界は多種多様であって、わが国その類例を見ない。かように尾瀬は火山地帶における濕原形成の過程を示し、高層濕原としてわが国唯一の典型的のものであるのみならず、その発達並びに地形の変化に応じて植物群落は変化に富み、高山植物・森林植物・濕原植物・沼沢植物等の種類多く、稀有の動物も少なからず自然の一大宝庫というべきであって、学術上の価値は極めて高い。