兵書として著名な現行三略本に属する現存最古写本である。料紙に延慶二年と応長二年の具注暦紙背を用い、墨界中に一行十四・五字に書写し、上中下各巻を一巻に収めている。本文中には返点・送仮名・連続符などの朱墨訓点が稠密に付され、まま朱拘点もみられる。奥書によると寛弘八年菅原宣義が加点した証本を応徳元年、建保二年、弘安七年等に転写校点し、その本を正和二年に良祐が写得加点したのが本巻である。この寛弘八年は武経七書を定めた北宋元豊年間を遡ること約七十年以前で、当時すでに現行本系の三略が、わが国に伝来し、その訓説が菅家でほぼ確立していたことを伝えて注目される。本巻は三略の鎌倉時代に遡る唯一の古写本で、現行本三略の古態を伝えて貴重である。