文台とは一般に和歌や連歌の会席において短冊・懐紙をのせる台のことで、歌会の中心的役割りを果たす重要な存在であり、室町後期以降多く硯箱と一具として製作・使用されるようになる。室町時代の文台の優品には蒔絵の作例が多いが、本件では、中世新たに中国から伝えられ、当時珍重された沈金(刀刻線内に金箔を押込めて文様を表す技法)で加飾されている。
文台の運刀法はよどみがなく筆意がある巧妙なものであるのに対し、硯箱のそれは繊細・巧緻であるなど、両者の技法・作期にはいささかの差異があるが、共にわが国における初期沈金遺例中、刀技に優れ、保存良好な文台・硯箱の稀少な作例である。
なお、社伝によれば連歌を通じて霊元上皇と親交のあった小松天満宮初代別当能順【のうじゆん】(一六二八~一七〇六)が共に上皇より下賜されたもので、以来当社連歌会に一具として用いられている。