五輪塔とは、宇宙の根源は地・水・火・風・空により形成されているとの五大思想を象徴的に形象化した塔である。
修理に伴って解体した水・火輪の奉籠孔から、造立願文をはじめ様々な納入品が発見され、この五輪塔が当寺(性海寺)安穏、仏法興隆、衆生利益等を願い、弘安五年(一二八二)四月から六年四月までの一か年をかけて製作されたことが明らかとなり、その経緯についても詳かとなった。
納入品の中心となるのは能作生珠で、この表面は塗漆しているがX線写真によれば内に金属製の合子が認められる。これは弘法大師の『御遺告』に記されたその製作法によれば、合子の内に舎利三二粒を納めるという。
また吽字八万四千は種字の〓字を実際に八万四千字書写した紙である。吽字は密教においてすべての事物の究極の象徴であり、無限の功徳がここから生じ、また願い事が叶うとされており、数の無数なることを意味する八万四千字を書写することによってその完璧を期したことが知られる。
二枚の天部形図像の典拠は詳かでないが、他の各種の真言・陀羅尼・曼荼羅等が有す護法・祈願の性格が強く感じられる。
なおこれらを包んでいた錦裂は製作時期の明確な倭錦として貴重である。
鎌倉時代の豪快な形態の特色をよく示し、工芸的にも完成されたきわめて特異・稀少な木製五輪塔として重要であるばかりでなく、その納入品の数々も仏教信仰資料として他に類が少なくその価値は高い。