久能山東照宮に奉納品として伝来した徳川家康関係の文書及び遺品類で、東照大権現としての家康に関する(一)位記、宣旨、口宣案類(二)神服、調度類と家康が生前に身の回り品として愛玩したと認められる(三)書画、典籍類(四)道具類に類別される。これらのうち(四)道具類は、書院調度類、香道具類、茶道具類、薬道具類、武具・馬具類、雑具類、行脚・駕籠等に種別され、家康の平生の趣向を反映する洗練された書院調度類、大陸・ヨーロッパ将来の諸道具類が中心を占めている。なかでも洋時計(本号表紙参照)は、一五八一年にスペインのマドリッドでフィリップ二世の御用時計師であったハンスの製作に係るもので、わが国に現存する最古の洋時計であり、鉛筆はこれまた現存最古の遺品として有名なものである。このほか目器は鼈甲縁にスペイン製のレンズを嵌めたもので慶長十六年メキシコの答礼使セバスチャン・スピカイノの献上品といわれ、いずれも文化史上の珍しい遺品として注目される。
徳川家康の生涯については史書・文書等に詳しいが、これらの遺品類は往時の家康の姿の一端を伝え、まとまった資料として歴史上に価値が高い。