『法曹類林』は、藤原通憲【みちのり】(信西、一一〇六-五九)の編になる法制書で、内容は律令格式に基づく判例集である。『本朝書籍目録【ほんちょうしょじゃくもくろく】』によると、二(七)三〇巻を存したとする。その成立は、通憲が政界の中心として活動した保元元年(一一五六)から平治元年(一一五九)に内乱によって失脚するまでの期間であったと考えられている。
『法曹類林』は、古代の法制研究資料として貴重な文献であるが、古くから散逸してその所在が知られなかった。享保四年(一七二二)に、徳川吉宗が諸国に命令を下して本書を求め、それに応えて加賀藩主前田綱紀が同年四月に所蔵の古写本三巻を献上した。この三巻は江戸幕府の紅葉山文庫本を引き継ぐ国立公文書館(内閣文庫本)に所蔵する。前田家の文庫である前田育徳会にも一巻を所蔵する。いずれも金沢文庫旧蔵本で、重要文化財に指定されている。
本巻は、重要美術品の一紙と実翁『性霊集鈔【しょうりょうしゅうしょう】』の表紙裏打紙に使用していた断簡十九紙からなる巻子本である。
料紙には楮紙打紙を用い、押界を施している。この押界は他の重要文化財にみられる押界と同寸法である。本文は一行一八字前後に書写する。朱書による頭注や行間注がみられる。巻末には、金沢貞顕【さだあき】(一二七八-一三三三)の奥書と金沢文庫印が捺されている。奥書によれば、嘉元二年(一三〇四)六月に六波羅探題【ろくはらたんだい】として在京中の貞顕が巻次を追って一挙に書写させたことが知られる。書写は数筆に分かれ、複数の筆者が交互にあるいは分担して写し継いだものと思われる。
内容は、私稲・船・米・石帯などの「借物」に関する問答で、律令・格式などを用いて論じている。案件ごとに固有名詞は甲乙に置き換えているが、年月日・勘申者は明記する。
内容および奥書の日付より、本巻は既指定と同じ『法曹類林』の断簡であると認められる。収録されている各種の判例は、平安時代の変容しつつあった律令法の姿や当時の法理・慣例などをうかがわせる史料としてきわめて貴重である。
附の紙帙【かみちつ】には、「□□類林第十一帙〈十巻神事断罪十〉」と墨書がある。これによれば、『法曹類林』は一〇巻を一帙に納め、その第一一帙目が「神事断罪十」にあたることが判明する。