懸仏(かけぼとけ)の尊像部分が遺ったもの。団扇(だんせん)を胸前に袖中して捧げ持つ女神像(じょしんぞう)を表す。女神は牀座(しょうざ)あるいは上畳(あげだたみ)を思わせる敷物上に坐し、鰭袖(ひれそで)の上衣及び裙(くん)を着けるいわゆる唐装の服制で表される。女神は豊満でたっぷりとした肉取りがみられ、ややつり上がった眉目や太造りの鼻と相俟(あいま)って、威厳のある表情を作り出している。女神を表す鏡像は永承6年(1051)銘の線刻子守三所権現鏡像(せんこくこもりさんしょごんげんきょうぞう)はじめ数例が知られるが、懸仏は類例が少なく、貴重である。全体に緊張感が減じ、平板で重苦しさを感じさせる表現は、制作年代の下降を示しており、鎌倉時代後期以降の作であると推測される。
古玩逍遥 服部和彦氏寄贈 仏教工芸. 奈良国立博物館, 2007, p.27, no.12.