三巻の巻子に仕立てられた佐賀藩士徳永傳之助関係の書簡群が残されている。徳永は10代佐賀藩主鍋島直正の側近のひとり。箱書きにより明治期に徳永家より鍋島家に献上されたものと見られる。
そのうち一巻には鍋島直正が「極密」として側近の徳永傳之助に宛てた直筆の書簡十四通から成る。そのうち巻頭の4通はいずれも安政2年(1855)頃のものと見られる。長崎でオランダ船に乗船し「来年、蒸気船を長崎にもたらすよう約束を取り付けようとしたところ、思いのほかすぐによい返事をもらえた。実は幕府の蒸気船(観光丸)よりも良いものをもたらすと言っていた」と、オランダ人との交渉の手応えを伝えている(書簡四)。また対幕府については、「萬一、願書御差し返し相成り候共、押し返し候ても相願い候様取り計い度候」、つまり蒸気船入手の願書をもし突き返されても、押し返してでもお願いするようにと指示している(書簡三)。長崎警備のための蒸気船入手への直正の意志が藩士にも強い対応を求める指示に表れている。