マリオネット
Marionette
1930年
北海道立三岸好太郎美術館蔵[O-33]
画面からはみ出すほどに大きく描かれたマリオネット人形。三岸節子夫人によれば、このマリオネットは手の内に入るような小さなマスコットの人形であったという。しかし、暗緑色の背景から両手両足をいっぱいに広げて立ちはだかり、不気味な笑いを浮かべた絵の中のその姿は、そのような小さなものとは思えぬほど、そして人形とは思えぬほどに、大きさや生命力を感じさせる。見る人を不安に陥れ、怪奇な夢の世界へ誘い込むかのようである。
1924年に三岸が春陽会賞を受賞しての感想に「静かで朗らかな雰囲気、又その内に浮漾すう或る唐突さを感じさせるグロテスクな、又ファンタスティックな感じさう云ふ味が、私の表現したいもの」と記していた言葉が、そのままここに結実したとさえいえなくもない。
展示された春陽会展では会内外の多くの好評を得られ、また同年の秋、関西の二科会メンバーがつくっていた美術誌「SELECTO」の口絵にもカラーで掲載された。この作品の持つ特異な魅力がおそらく里見勝蔵ら二科会の先鋭たちの注目するところとなり、彼らが主導した新団体・独立美術協会の創立に三岸も迎えられることになったのである。