面取りした蓋の表に梨地を背景に、南蛮人と洋犬を薄肉金蒔絵と銀薄板で施した硯箱。南蛮人は、ポルトガル人の従者と推定されます。服装に着目すると首元にはラッフル(ruffle)と呼ばれる襞のついた襟がみられ、洋袴にはふっくらとした特異な形態のトランクフォーゼをまとっています。腰には細長い剣も確認できます。洋犬は人物に視線を向けるように上方を向いており、その眼には貝片が嵌め込まれています。箱のなかには、硯が欠失していますが、朝顔文を施した懸子(かけご)、茄子形の水滴が収められています。
南蛮人の意匠は、南蛮屏風に描かれる人物を参考にしたことが示唆されています。16世紀以降、西洋との交流のなかで、海外向けの輸出品が製作されていますが、本作のような南蛮人を意匠にとる漆器は国内向けの調度品と考えられています。当時の日本の人々の「異国」へのまなざしがうかがえる作例です。
【近世・近代の漆工・陶磁器・染織】【南蛮美術】