樹上から水面をのぞき込む一羽の白鷺。その頭上を白頭翁(シロガシラ)が飛んでいます。「鷺(lù)」と「路(lù)」の音通から、一羽の鷺で「一路」を意味しています。白頭翁は頭頂部の白さから白髪、すなわち長寿を表しています。「一路功名到白頭之句 繍江熊斐補圖」の落款から、ただ一筋に功名を志し、立身出世して、長寿となるという、人生の成功の路を歩み続ける吉祥性が込められている作品です。水面をじっと見つめて獲物を狙う凛々しい白鷺は、まるで手柄を立てて栄進を求める姿のようにも理解できます。「沈南蘋画図百幅」にも挙げられる典型的吉祥画題です。なお、尾張徳川家では宝暦3~4年(1753-54)頃に8代・宗勝が長崎奉行を通じて、熊斐に絹本の花鳥画屏風1双及び掛幅3幅を注文したことが熊斐「猛虎震威図」(徳川美術館蔵)附属文書から判明します。「一路功名図」も尾張徳川家伝来で、12代・斉荘の娘である利姫が広島浅野家10代・慶熾に嫁いだ際の婚礼道具とされました。
【長崎ゆかりの近世絵画】