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椅子による女
Woman Sitting on the Chair
1931年
紙本彩色・額 225.0×121.5cm
モダン・ボーイだった吉岡堅二の真骨頂をしめすハイカラな作品である。暑いころであろうか、木陰で涼をとる洋装の女性(作者の新妻といわれる)のツーピースの地色の緑と、胸元、袖口、靴、椅子のパイプの白とが、鮮やかなコントラストをみせる。その一方で、炭酸水をのせた円卓、頭上のトチの木の枝振りの、幾何学的ともいうべき形態が画面をいちじるしく知的なものにしている。人物画における、こうした明晰な構成感覚はこの時期の吉岡に特徴的なものであり、これよりも2年後の、3人の女性が歌を歌っているところを描いた《小憩》(帝展特選作、東京国立近代美術館蔵)にも共通するものである。それにしても、この芝生にすわる女性の、なんというのどかさであろう。画面の縁によって円卓が、枝振りが切断され、外界から切り離されてしまった、まさにこの絵と同じように、彼女もまた心ゆくまで自分の世界に浸りきっているようだ。国内外の危機とともに迫りくる軍靴の音はいまだきこえず、すべては、ただ一つのものをのぞいて、大正リベラリズムの余韻ともいうべき澄明さに満たされている。ただ一つの例外とは、芝生との間を、あいまいに仕切られた、どこまでも明るく透明な背景、しかしながらどこか現実味を欠いた背景であり、ここに不安な時代のかすかな反響をきくことはできるだろう。第12回帝展出品作。