193 ラインハート、アド(1913−1967) 抽象絵画 1958年
ニューヨーク州バッファロー生まれ。コロンビア大学でメイヤー・シャピロから美術史を学んだ後、ナショナル・アカデミー・オブ・デザイン、アメリカン・アーティスト・スクールで絵画を学ぶ。第二次大戦末期には絵画のみならず写真や批評にも手を染めた。1947年から亡くなる67年までブルックリン大学の教壇に立った理論家でもある。
1930年代はキュビスムやモンドリアンの新造形主義に由来する幾何学様式、40年代は抽象表現主義に近い様式を見せたラインハートは50年代に入ると、この《抽象絵画》を含む〈ブラック・ペインティング〉と呼ばれる黒いモノクロームの作品群によって独自のスタイルを確立する。一見すると黒色で単一化された画面だが、実は写真では再現しがたいほど微妙な色調の変化によって幾つかの色面に分割されている。「色彩の否定」として捉えられた黒色は、「芸術としての芸術」、つまり外部の何物をも参照しない芸術の絶対的な自律性と、抽象絵画によるその実現を思考し続けたラインハートが最後に行き着いた色であった。