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あそうさぶろう
麻生三郎(1913一)
ASO,Saburo
人
Man
昭和55年(1980)
東京国立近代美術館蔵
自分の体以外のものをすべて剥ぎ取られ,目もうつろに絶望して立ちつくす人の姿。ここには第二次大戦直後の日本の苛酷で非人間的な状況の反映がある。東京生まれの画家,麻生三郎はシュルレアリスムの影響を受けるが,やがて戦中と戦後の日本の悲惨な現実を直視することで実存主義的ともいえる人間像を描きだし大きな衝撃をあたえた。画面左下隅の年記から1980年10月18日の制作と知れるこのデッサンは,その制作年代の新しさにもかかわらず,見せかけの繁栄の奥にひそむ現代人の不安と孤独を扶り出してやまない。