金銀糸・平箔は、伝統的には金銀箔を漆により和紙に接着させた平箔と、平箔を裁断して製作した金銀糸の総称である。
我が国には、古代より金銀糸を用いた織物の遺品が伝来するが、金銀糸の国内製作が隆盛をみるのは江戸時代を迎えてからのことである。金銀糸は主に豪奢な織物に利用され、文化財(美術工芸品)では表具用の金銀襴【きんぎんらん】・金銀紗【きんぎんしゃ】などの材料として用いられる。
江戸時代における金銀糸・平箔製作は、目止め加工した鳥【とり】の子【こ】紙【し】などに漆を塗布し、その上に金銀箔を押した平箔を裁断し金銀糸とするものであった。しかし、明治時代に機械織が導入され金銀襴などの需要が飛躍的に増大したことをうけ、製作技術の改良が加えられ、品質・技法は多様化した。また、近年は高価な本金・本銀を使用した金銀糸の需要が激減し、伝統的な金銀糸・平箔製作の技術者は希少な存在となっている。
文化財(美術工芸品)修理において、需要も多く不可欠な材料である表具用金銀襴などの製作のためには、伝統的技術により製作された金銀糸・平箔を欠かすことはできず、同製作技術に対し保存の措置を講じる必要がある。