中年の女面。曲見は、金春流では若曲見と深曲見にわけられるが、この面の面相はむしろ深井のものに近い。おでこが出て額の高い位置に墨でぼかした眉を左右に開き気味に描き、二重瞼の目は切れ長で上瞼の縁がわずかに波打つ。下瞼の際も直線的だが抑揚がある。鼻はやや太く頬の肉が削げて、両頬に長めの窪みがある。口は唇をはっきり表わし虚ろに開く。面裏は細かな丸鑿痕が残り光沢のある黒塗りで、両頬、こめかみ部分は透き漆を塗り分けている。これらの特徴は、観世大夫家に伝来した古面の写しとして知られる深井(河内印、17世紀、東京国立博物館所蔵)に近く、特に面裏については、黒漆塗に頬の部分を一部茶色に塗分けている点などが共通している。