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東山魁夷(1908− )
HIGASHIYAMA,Kaii
たにま
Ravine
1953(昭和28)年
作者寄贈
やわらかく雪の積もった谷間に春が訪れ、雪解けの水が流れはじめる。小川の流れはリズミカルな曲線を描き、雪の白と川の緑の色彩対比も快い。川の緑が輝かしいのは、下地に金箔・金泥を用い、その上に緑青をかけてあるためである。単純化した色面による装飾性あふれる画面だが、この情景は長野県の野沢温泉付近の実際の風景をもとに構想されている。自然と対話しながら、そこに人生についての思索を投影していく魁夷は、ここでも戦中・戦後の困難な体験を乗り越えて画壇で脚光を浴びつつあった自らの心境を、作品にこめているようである。