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火山 一面
吉原治良
油彩・キャンパス
七三・〇×九〇・四
昭和十八年(一九四三)
東京国立近代美術館
山口長男、村井正誠らとともに日本における抽象絵画の先駆者であった吉原(一九〇五〜一九七二)は、黒い画面いっぱいに措いた白い円や直線という極度に単純化された戦後の作品によって知られているが、そこに至るまでには、めまぐるしい作風の変貌があった。最初期の魚の静物画から、キリコらの影響が指摘される浜辺を背景としたシュールレアリスム的イメージの時代を経て、一九三〇年代半ばには純粋抽象へと移行した。
昭和十八年(一九四三)の二科展に出品された本作品は、戦争画が美術展の大勢を占めようになり、「超非常時に○や△をかいて遊んでいる」と抽象絵画に対しての風当たりが強くなった戦時下の日本において、吉原が純粋抽象からの後退を余儀なくされた時期のものである。「火山」という主題は当時の日本の不穏な状況を考えあわせてみると象徴的であるが、その簡潔かつ軽妙な線描からは、重苦しい感情は微塵も感じられず、むしろ困難に対処する方法としてのユーモアとでも言うべき吉原の醒めた姿勢を見て取ることができよう。