<構成する文化遺産>
石州半紙(重要無形文化財(工芸技術:手漉和紙)昭和44年4月15日指定),本美濃紙(重要無形文化財(工芸技術:手漉和紙),細川紙(重要無形文化財(工芸技術:手漉和紙)昭和53年4月26日指定)
<分類>
原料に「楮(こうぞ)」のみを用いる等,伝統的な製法による手漉和紙の製作技術を伝統工芸技術として提案。
<提案の内容>
国指定重要無形文化財「手漉和紙」(保持団体認定)により構成され,保護措置として,伝承者養成,資料収集整理,品質管理,原材料用具確保,和紙制作技術研究を目的とした各事業を実施。
○石州半紙(せきしゅうばんし)(島根県)
島根県西部の石見地方(石州)に伝承されてきた楮和紙の製作技術。石見国では10世紀初めには既に製紙が行われ,江戸時代には,石州で漉かれる半紙という規格の紙が大坂商人たちの帳簿用紙として重用され,石州半紙の名が広まった。現在は,主に,障子紙や書画用紙として用いられている。3年間育てた楮を原料に用い,我が国特有の「流し漉き」と呼ばれる製紙技法で紙を漉く。石州半紙の最大の特色は強靭な紙質であり,これは,楮のあま皮を残して用いる独特の原料処理方法に代表される,自然の素材を生かす伝統技法によって生み出される。現在、石州半紙技術者会会員によって技術が伝承され,研修生たちが技術を学んでいる。
○本美濃紙(岐阜県)
岐阜県美濃市蕨生地区に伝承されてきた楮和紙の製作技術。美濃の地域では早くから紙が漉かれ,大宝2(702)年の美濃国の戸籍用紙が正倉院に残る。江戸時代以来,本美濃紙は,最高級の障子紙として高く評価されてきた。現在は,主に,障子紙のほか文化財保存修理用紙として用いられている。入念な手作業で原料処理を行い,不純物をよく取り除いて楮の繊維のみを用い,良質な製作用具を使用して我が国特有の「流し漉き」で漉き,板に貼りつけて天日乾燥する。紙漉き操作は「縦ゆり」に「横ゆり」を加え,左右方向にも用具を動かして漉くため,繊維がむらなく整然と広がり,美しく漉き上がる。現在,本美濃紙保存会会員と研修生たちによって技術の伝承活動が行われている。
○細川紙(埼玉県)
埼玉県比企郡小川町及び秩父郡東秩父村に伝承されてきた楮和紙の製作技術である。江戸時代,紀州の細川村で漉かれていた細川奉書の製作技術が,大消費地であった江戸に近い武州男衾・比企・秩父3郡に伝えられて盛んになった。細川紙は,商家の大福帳などの帳簿用紙や記録用紙,襖紙などに用いられ,江戸の庶民の生活必需品として重用された。現在は,主に,和本用紙,版画用紙,文化財保存修理用紙として用いられている。細川紙の製作技法は,楮のみを原料に用い,我が国特有の「流し漉き」で漉くものであり,漉き上がった紙は,紙面が毛羽立ちにくく,強靭な性質をもつ。現在,細川紙技術者協会会員及び準会員,研修生たちが技術の伝承活動を行っている。