興福寺三重塔 一基
三重塔は皇嘉門院の御願により康治二年(一一四三)に完成したが、治承匹年(一一八〇)の兵火に焼失し、のち再建された。再建の年代は明確でないが、焼失後間もなくと思われる。建立後天文十九年(一五五〇)に修理があった。形式は各重とも方三軒、初重に縁をつけた三重塔であって、組物は初重が出組、ほかは三手先である。内部においては、心柱を二重で止め、初重は四天柱間に対角線に板を張り、その両面に千体仏を描いている。これは珍しい形式である。そのほか折上小組格天井、長押、方立柱などには極彩色の唐文様を描いている。木割の細い、平安時代風の様式を伝えたもので、全体の姿は優美であり、現存する三重塔の中でも屈指のものである。
【引用文献】
『国宝辞典(四)』(便利堂 二〇一九年)