絹本著色僧形八幡神影向図 けんぽんちゃくしょくそうぎょうはちまんしんようごうず

絵画 / 鎌倉

  • 鎌倉
  • 1幅
  • 重文指定年月日:19900619
    国宝指定年月日:
    登録年月日:
  • 仁和寺
  • 国宝・重要文化財(美術品)

 この種の影向図は、十三世紀後半以降さかんにえがかれ、弘長二年(一二六二)の清滝権現像(畠山記念館)、文永十年(一二七三)の金剛般若経見返稚児文殊出現図(大東急記念文庫)、正和元年(一三一二)の春日明神影向図(藤田美術館)、元徳元年(一三二九)の熊野権現影向図(檀王法林寺)はいずれも重要文化財の指定を受けている。
 本図にえがかれている建物は寺院の一隅と思われる。扉が片開きであるなど、現実にそぐわない点があるが、おそらく後陣ではないかと想像される。建物の描写がきわめて簡素であるのに対して、八幡神と二人の貴人は文様にいたるまで細かく表現されている。八幡神の装束は、茶地に緑色唐草文・金銀菊菱文の僧綱襟を立てた袍裳、遠山袈裟、緑地に金色唐草丸文散しの横被、裾赤白地の袴に草鞋、という装いである。跪坐してこれを礼拝する二人の貴人のうち黒袍を着けるものは垂纓の文官姿であるのに対して、茶色の袍を着る人物は巻纓に老懸をつけた武官の装いであるが、ともに笏を手に持つ。八幡神は貴人より大きくえがかれており、すでに常人と異なることがわかるが、それ以上に内側の壁に映った影の存在がいかにも影向図らしい神秘感を生み出すことに成功している。建物内部の影が見えるように、絵師は外壁と色を変え、さらに外壁の一部を省略するなどの工夫をしている点も注目される。
 天保十五年(一八四四)の蓋裏貼紙によれば本図は「宇佐八幡影向図を写した」とされるが、これがいかなる場面をえがいたものか、宇佐八幡宮には該当する記録はない。いずれにせよ文永の役を契機とした八幡神仰のたかまりの中から生み出されたものと考えてよいであろう。

絹本著色僧形八幡神影向図

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