護国の経典とされる『金光明最勝王経』(十巻)を、細字で一行二十七~三十字あてに二巻に書写したものである。奥書はないが書風から、奈良時代中期の写経と認められる。全巻にわたり白書の註記(大部分摩消)があるほか、巻第一部分にのみ朱訓点、巻第四・第九部分に墨訓点がある。このうち朱訓点は平安時代後期の天〓波流【テニハル】点別流、墨訓点は平安時代中期の第一群点で、いずれも比叡山系の訓点である。各紙継ぎ目上下には麻糸による封があり、これは奈良・平安初期写経に間々みられる珍しいものである。伝存稀れな奈良時代細字経の遺例で、文中にほどこされた訓点は国語史資料として注目される。