これら三種の写経は、もと京都の勧修寺大蔵経のうちとして伝来したもので、いずれも書写奥書はないが、『大〓盧遮那経』は奈良末期の写経、『金剛頂経』は平安中期の写経、『蘇悉地経』は奈良中期の写経である。これら三経には文中に平安時代にほどこされた白・朱などの訓点や註記が多い。そのうち『大〓盧遮那経』の白訓点は平安初期の第二群点(南都喜多院点)の変種とみられ、従来未見の珍しい訓点である。『金剛頂経』の朱点は治安年間と長元六年(一〇三三)加点の仁和寺円堂点とみられる。『蘇悉地経』には角筆点を含む七種の訓点が認められる。それらのうち最古は長保頃の薄い白訓点で、最も下るのは天仁元年(一一〇八)加点の朱点で、これらは総じて仁和寺を中心としたものである。これら訓点は国語史資料として価値が高い。