『仲文集』は、平安時代中期に活躍した歌人で、三十六歌仙の一人に数えられる正五位下、蔵人の藤原仲文(九二三-九九二)の家集である。
この冷泉家本は藤原定家(一一六二-一二四一)の書写になるもので、体裁は綴葉装縦長本、白地蝶丸文萩模様茶蝋牋【ろうせん】の原表紙の中央に定家の筆で「仲文集」と外題を墨書している。本文料紙は楮交り斐紙および楮紙を用い、第一丁(扉紙)裏に定家筆で「仲文」と掲げ、本文は第二丁表より半葉九行前後、和歌は一首二行書き、詞書は二字下げに書写しており、和歌八十四首を収めている。通帖一筆に書写されており、書写奥書はないが、その筆致から藤原定家の壮年期の書写になるものと認められる。文中、数か所に擦消、みせ消などの墨書訂正があるが、これも定家の手によるものと認められる。
『仲文集』は三十六人集に収められているので、その伝本が多いが、所収歌によって三系統に分類されている。この冷泉家本は八十四首を収め、最も所収歌数の多い系統に属し、この系統の写本はこれまで宮内庁書陵部所蔵の丙本など江戸時代の写本が知られていたが、冷泉家本はその親本にあたるもので、国文学史研究上に貴重である。