煙草盆は炭火を入れる火入れ、吸殻を捨てる灰吹き、煙管をのせる支えや煙草を入れる引き出しなどを備えたコンパクトな喫煙セット。この煙草盆は、12代鍋島直映夫人禎子の所用になる。扇面、色紙、折敷、雪輪、梅花などを象った切形文様をつなげて器物の輪郭とした変り形で、盆中央に鶴梅を透彫りした銀製の火入れと灰吹きが収められる。それぞれの切形には、さまざまなモチーフがあらわされる。主人公を描かずにゆかりの品々で物語を暗示する留守模様という手法を用いており、切形ごとに異なる能の謡曲がテーマになっている。例えば正面に配された折敷形の「岩に波千鳥」で『淡路』を、梅花形の「東北院の梅」で『東北』を、雪輪形の「塩釜の景」で『融』を暗示する、といった具合。