天正年間(一五七三-一五九一)に千利休の好みを受けて「宗易形」といわれる茶碗を創出した楽焼きの創始者長次郎の作品は茶碗を中心に手捏により内窯焼成により製作された。
長次郎の楽茶碗には赤楽・黒楽の二種があり、ともに半筒型を基本とするが、楽焼黒茶碗〈大黒〉(重要文化財)、楽焼黒茶碗〈東陽坊〉(重要文化財)、赤楽茶碗〈無一物〉(重要文化財頴川美術館蔵)に代表される、ふっくらと丸い腰から口縁に向かってまっすぐ立ち上がり口縁が内にわずかにすぼまる作と、本作品のように腰の張った相対に作為の強い作があり、後者の代表作として本碗はつとに名高いものである。
柔らかみのある端正な姿に黒釉がよく調和し、落ち着いた佇まいを示す長次郎の黒楽茶碗の優作である。