孔子が政教に関して編述した「書経【しよきよう】」の唐代初期古写本で、隷古字【れいこじ】という古体の文字を交えて書かれている。この種の旧鈔本は中国では早く散逸したが、わが国に古く伝来した本巻や東洋文庫本等によって旧本尚書の内容が知られ、学界に注目される稀本となっている。この神田家本は巻第六の大部分を存し、東洋文庫本は巻第三・五・十二を伝える(国宝)。さらにこの僚巻が御物本にあり、巻第三・四・八・十・十三が四巻に収められている(九條家伝来)。これらにはいずれも平安中期を下らない朱・墨・角筆の訓点があって、国語学的にも注目されるとともに、その伝来の古さを示している。紙背には室町時代書写とみられる元秘抄【げんぴしよう】(高辻長成編)がある。