石山寺一切経の内にあり、奈良時代の知識経のひとつとして知られる『瑜伽師地論』の僚巻。巻尾に本文とは別筆の小文字による「天平十六年歳次甲申三月十五日/讃岐国山田郡舎人国足」の奥書がある。
石山寺一切経は、念西が久安4年(1148)に発願したもので、書写と共に、奈良・平安時代の古経の蒐集もおこなわれた。現在、石山寺には一切経として4644帖が80合の経函に納められており、重要文化財に指定されている。このうち第三十九函が『瑜伽師地論』の函で、100帖のうち43帖が現存し、このうち21帖が本帖と同じく舎人国足願経である。舎人国足願経は念西の蒐集によって石山寺に入った古経と考えて大過ない。舎人国足については未詳。
本帖の経文の文字は写経生の手になるものかとも思われるが、文字の訂正方法が写経所とは異なっており、民間で書写されたと推測される。全巻にわたり施された白点と白書は、9世紀末に東大寺辺で加えられた可能性が高く、国語資料としても大変貴重である。保存状態はすこぶる良好で、裏打ちもなく、江戸時代(天明~寛政年間)に石山寺で折本に改装された際に天地が2センチ程切断されたが、書写当時の料紙の状態をよく今に伝えている。
なお僚巻は、石山寺のほか京都国立博物館、唐招提寺、天理図書館などに所蔵されており、天理図書館所藏の巻第四十二の紙背には「元興寺印」が捺されている。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.302, no.112.