金平蒔絵、付描、描割といった技法で花杏葉紋を配し、五七桐紋と唐草模様を軽やかに描く。花杏葉紋とは鍋島家の家紋である杏葉紋の一種で、中心部に半円状の蘂をあらわすのが特徴とされる。鍋島家のなかでも奥方や姫君といった女性用の調度に用いられ、また分家の定紋として用いられた。ほかに葉の部分に密に縦線を入れたものを筋杏葉紋といい、これは本家のみが定紋として用いた。この飯櫃・湯桶の所用者は不明で、明治期に家臣の百武家より献上されたものである。おそらくは婚礼調度の一つとして鍋島家で誂えられたものと考えられる。ちなみに、花杏葉紋の周囲に文様のように散らされた桐紋は『寛政重修諸家譜』には鍋島家の替紋と記されるが、鍋島家において替紋として使用された現存作例はほとんどない。