鉄製の大型釜はすでに奈良より使用されており、またこの種の類似の遺品として鉄製の湯船がある。湯船としては東大寺大湯屋所在の鉄湯船(建久八年-一一九七在銘・重文)をはじめ、先年重文に指定された成相寺・智恩寺の鉄湯船(共に正応三年-一二九〇在銘)などが知られている。
これは鋳鉄製で、胴上部に幅広の鍔をつけた湯釜である。肩には左廻りに「建久□□歳次戊午四月廿二日 熊野山本宮釜 願主□□聖奉入」の鋳出銘があり、湯釜としてはわが国最古の在銘遺品である。装飾はないが大型で形姿よく,鋳技の優れた基準作である。