六角堂の内陣に本尊如意輪観音(秘仏)の脇立【わきだち】としてまつられる毘沙門天の三尺像である。忿怒形ながら穏健にまとめた表情や、動きを控えた体勢など、いかにも平安時代後期の造像らしい特色を示しているが、それでいて面奥・躰奥に十分な厚味があり、総体にいまだ形式化しないのびやかさがあるところから判断すると製作の時期は十一世紀末ないし十二世紀初と考えてよいであろう。檜材一木造の彩色【さいしき】像で、細部に至るまで彫刻的に表現しようとする点が大いに注目される。いずれにせよ彫技の巧みな都風【みやこ】の美作として貴重なものである。