撃蒙抄 げきもうしょう

歴史資料/書跡・典籍/古文書 その他 / 南北朝

  • 奈良県
  • 南北朝
  • 1帖
  • 天理大学附属天理図書館 奈良県天理市杣之内町1050
  • 重文指定年月日:19910621
    国宝指定年月日:
    登録年月日:
  • 学校法人天理大学
  • 国宝・重要文化財(美術品)

 『撃蒙抄』は延文三年(一三五八)七月上旬、二条良基が後光厳天皇の勅諚により起草した連歌論書である。
 本帖はその成立後間もない最古写本で、体裁は綴葉装、紺紙花兎入花菱文金襴後補表紙に「撃蒙抄」の外題簽を付し、見返には銀泥波形金泥紅葉散蝶蜻蛉模様を描いている。料紙には薄黄、薄茶、白茶の各色替り染紙に白紙を交えた楮紙を用い、本文は半葉七~八行に、まま六・九行を交え、暢達【ちようたつ】した書風で一筆に書写された上製本である。ただし、現状は近世に本紙を相剥修理した際に、一部文字の薄れた箇所に加えられた補筆の跡がみえている。
 本帖の構成は、首に「撃蒙抄」と内題があり、ついで「惣録」として半葉三段宛に「初学」以下「腋句」に至る十四の標目を掲げ、本文は「一、初学の習へき躰」以下、秀逸の体、前句の付合付様、対揚、引違、本歌本説、倒語、名所、異物奇言、韻字に至る十一の付様と和漢、発句、脇句についての心得をそれぞれ例をあげて説いている。帖末の「撃蒙抄」の尾題についで「貞治五年十一月廿日書写之訖」の奥書がみえ、本帖がその成立後八年を経た良基存命中の古写本であることを明らかにしている。文中の引用句の総数は一七〇句で、そのうちの発句六句、付句四一句は『菟玖波集』にも収められている。なかでも「空蝉の」(一九丁オ)の句が『密伝抄』等に良阿の句としてみえるほかは、多くが救済の句を例にあげて具体的にその付様を記しており、両者の緊密な関係を伝えている。
 『撃蒙抄』は『僻連抄』とともに二条良基の初期の連歌論書として知られているが、その伝本は少なく、他に故山田孝雄氏蔵本(大正六年、珍書同好会複製)が紹介されているが、同本には錯簡、欠脱があり、この天理大学本が唯一の善本として知られている。なお本帖は、享保四年(一七二九)八月堺の開口神社に寄進されたもので、戦後に天理大学の所有に帰したものである。

撃蒙抄

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