紙本著色浜松図〈/六曲屏風〉

絵画 / 室町

  • 室町
  • 一双
  • 重文指定年月日:20000627
    国宝指定年月日:
    登録年月日:
  • 国宝・重要文化財(美術品)

 浜松図は上代以来やまと絵山水の点景としてしばしば描かれ、中世には独立した障屏画の主題として広く親しまれていたが、実作品としては、わずか三点しか伝存が知られていない。文化庁保管本(小坂家旧蔵、重文)、東京国立博物館保管本(重文)と本図である。
 このうち一六世紀中ごろの作といわれる東京国立博物館本は、花鳥画的な要素を併せもっており、中世よりは近世初期への親近性を強めている。他方の文化庁保管本はきわめて伝統的なやまと絵の範疇に根ざす作風を見せる。両者は共に構図に定型化への志向が看取されるのに対して、本図は対照的に、迫真的な実感性を重んじて豪快な図様をもっていることが注目される。また、一見浜辺に磯慣れの松を羅列するかにみえるが、右下から左上への対角線を軸とする、周到に計算された遠近構成をもった作品である。
 本図は厚い雲母地【きらじ】の上に金銀の微細な箔片を撒くのが大きな特徴であるが、雲母地屏風は近世以降には金箔押地にとって代わられていった。遺存作は、東京国立博物館本「浜松図」、金剛寺本「日月山水図」(重文)、出光美術館の「四季花木図」(重文)、宮内庁本「厩馬図」など、わずかである。金箔の金属的な輝きとは異なり、雲母の輝きは柔らかく、深みがある。本図では、波の表現に用いられた雲母の艶やかな輝きと、砂浜のうすい黄土色の下からの静かな輝きが、独特の効果をあげている。
 制作年代の推定は、基準となる作品がないため難しい。だが、本図のような金銀を多用する技法は、東京国立博物館本にみるような金中心の技法より古様であり、一五世紀後半の作と考えられる出光美術館本の雲霞の表現に近い。よって、本図の成立も一五世紀に遡ると考えられよう。
 本図には右隻の裏面に「光重筆浜松屏風」の貼紙がある。荒波の中で漁をする人物の表現も優れており、やまと絵系の相当な技量をもった画家と考えられるが、土佐派の特定画家に比定するのは困難である。
 中世のやまと絵屏風は遺存作が少なく、その一典型を今日に伝えるものとして本図の資料的な貴重さは特筆される。また、骨太で力強く、気宇の大きい表現は希有であり、指定にふさわしい優品といえよう。

紙本著色浜松図〈/六曲屏風〉

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