古来駿馬は神の乗り物とされ、刀とならんで一種のステータス・シンボルとして盛んにやりとりされた。本作は厩舎に繋がれた12頭の駿馬を描いた屏風絵で、いくつか現存する類作のなかでは最古級との定評がある。馬の描き分けが絵師の腕の見せどころとなるが、本作の描写には定型化した硬さがみられ、何らかの先行作があったことがうかがわれる。一方で、あくまでも静粛な雰囲気が本作の特徴で、この静粛さは、人物を省略した簡素な構成と渋めの彩色、そして画面全体の控えめな輝きによってもたらされている。雲母の輝きを明確に意識して作られた雲母地障屏画は15世紀に成熟し、16世紀末までにほぼ作られなくなったとみられ、現存作例は10点にも満たない。その中で、金を交えながらも雲母と銀の白く柔らかな輝きに重きを置き、洗練された雲霞表現を示す点で、本作は「四季花木図」(重要文化財、出光美術館蔵)に近く、室町時代のやまと絵屏風の優品のひとつに数えることができる。