『成尋阿闍梨母集』は、仏道修行のために延久四年(一〇七二)に渡宋した成尋阿闍梨(『参天台五台山記』の著者)に対する老母の思いを歌日記風に書き綴った平安時代後期の自撰私家集で、日記文学としても国文学史上にも注目されている。
この大阪青山学園本は、その鎌倉時代前期の写本で、藤原定家の手沢本である。体裁は綴葉装、白地立菱つなぎ刷模様の斐紙を表紙とし、その中央には定家様にて「成尋阿闍梨母集」の外題墨書がある。本文の料紙は斐楮交漉紙で、一部に墨流紙を用いている。本文は半葉十~十四行、歌は一首二行書で本文より一字下げに書かれ、所収歌数は一七五首である。文中にはまま訂正加筆があり、その一部および二箇所にある集付はその筆跡から藤原定家の筆と認められ、本帖が定家の所持本であったことを明らかにしている。
『成尋阿闍梨母集』の写本は、他には本帖を江戸時代前期に書写した一本が知られるのみで、本帖は古写唯一本であり、国文学研究上に貴重である。