わが国伝来の書画類は、四季の温湿度変化の影響を受けやすい紙や絹を主材料とするものが多いため、その多くは、巻子、掛幅、屏風などの様々な装具の形態に仕立てられて現在に伝わっている。これらの表装された文化財を、後世に維持・保存していくためのは、五〇年から一〇〇年を周期とした修理が必要である。こうした書画の表装に必要な裏打紙(美栖紙、宇陀紙)、補修紙や裂、保存箱等については、すでに選定保存技術の選定が行われている。
さて、これらの書画の表装には、金襴、紗、綾、羅など様々な織物が用いられているが、この表装裂にとって、本藍染は最も重要な染色方法の一つである。また、奈良時代の紺紙金字金光明最勝王経から江戸時代の法華経にいたるまで、紺紙を料紙とする装飾経が多数製作されており、国指定文化財だけでも膨大な巻数に及ぶが、これらの遺品の修理には紺紙が必要不可欠となっている。
このような裂や紙を染める本藍染の技術は、書画の修理にとって欠くことのできない技術である。しかし、伝統的な本藍染を行う人は希少になり、なかでも装〓の修理に協力できる技術者はきわめて得難いのが現状である。このため、本藍染を選定保存技術に選定し、積極的に保存・継承を図る必要がある。