5個の小壺を肩部に付けた壺部と3個の三角形の透かしを穿った脚部からなる須恵器である。壺部は頸部には櫛描き波状文と斜線文を施し、肩部には5個の小壺をめぐらし、その間には人物文と動物文とを線刻している。線刻像には両手をあげ刀剣を帯びた人物、騎馬人物、鹿などが表されている。色調は全体に灰白色を呈し、内部は黄白色で、頸部の一部には黒色を呈する自然釉がみられ、また焼成の際の焼き歪みも認められる。本例は他の須恵器には類をみない線刻画をもち、一種の狩猟の場面を表したものと推定され、極めて貴重な資料である。出土地は愛媛県北条市と伝えられるが、器形は愛媛県地方の古墳出土品にその類例がみられるので、その可能性が高いと思われる。6世紀中ごろの古墳時代後期の装飾須恵器の好例である。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.280, no.12.