マン・レイは、アメリカ南東部のフィラデルフィアに生まれた芸術家です。1921年、マルセル・デュシャンに誘われてパリに移住し、絵画の制作を続けつつ、生活の糧を得るために芸術家仲間たちを顧客として、写真撮影の仕事を開始しました。
恋人であったモンパルナスのキキを撮影した本作品のタイトルは、(古典派の画家ドミニク・アングルがヴァイオリンを余技としていた事実に由来して、)「玄人はだし」という意味で用いられている「アングルのヴァイオリン」という慣用句から命名されました。
ちなみにマン・レイは、本業であったはずの「画家」としてよりも、玄人はだしの「写真家」として有名となった作家です。
また、アングルは、19世紀半ばに絵画を脅かす存在として現れた「写真」というメディアについて、「われわれにはそんなものは不要だ」として写真批判を続けつつも、そのアングル自身、記録のために自作絵画を密かに写真に残していた事実が知られていますが、マン・レイも、制作した絵画作品の記録を綿密に写真に残しました。
そうした背景を鑑みると、本作のタイトルからは、マン・レイのアングルに対する共感を読み取ることができるかもしれません。