加藤清正の菩提寺である本妙寺に、清正所用とされる大名調度類が伝来する。
これらの調度類は、蒔絵の文様構成、技法等から大きく二系統に分類される。一つは、黒漆地に薄肉高蒔絵や絵梨子地による桐、桔梗、折墨などの各紋を散らした椀、膳類などの食器類の一群で、高台寺蒔絵が隆盛する以前の桃山時代初期の大名調度の様相を示す数少ない遺例である。もう一群は、梨子地に金銀蒔絵や螺鈿、切金、金貝などの技法を組み合わせて菊と桐の紋を配した香箱や懸盤、杯台などの調度類で、桃山期に流行した高台寺蒔絵で多用される片身替の意匠や螺鈿、切金などを駆使した多様な漆工技法による装飾が施されており、より豪華で荘重な雰囲気を湛えている。
いずれの一群も、桃山時代早期における漆工品の優品であるとともに、江戸時代初期において近世大名家における婚礼調度の格式が成立する以前の大名調度の様相を知ることができる貴重な資料といえる。