本件は、山梨県酒呑場(さけのみば)遺跡から出土した縄文時代中期を中心とする遺物一括である。
遺跡は、山梨県北杜市長坂町(ほくとしながさかちよう)長坂上条(かみじよう)に所在する。
平成六~十三年度(一九九四~二〇〇一年度)の四次に亘る発掘調査で、縄文時代中期の環状集落の存在が確認され、そのほぼ東半分が調査された。この環状集落は中期初頭の五領ヶ台(ごりようがだい)式から井戸尻(いどじり)式にかけての時期で、その東方には縄文時代前期の諸磯(もろいそ)b式期を中心とした住居跡群が重複していた。
本件は、この発掘調査で出土した遺物のうち、縄文時代中期を中心に一部前期の資料を含む土器・土製品四百六十三点と、石器・石製品二百二十点、合計六百八十三点で構成される。
本件を特徴づけるのは豊富な土器群である。その主体は、狢沢式から井戸尻式に至るいわゆる勝坂(かつさか)様式の土器群で、その多様さは注目に値する。その文様はきわめて多彩で、口縁部・頸部・胴部に三段の文様帯を重ねたものが多く、中にはサンショウウオ状の抽象文やみみずく状の眼鏡形突起などもみられる。これらは中部地方における縄文時代中期の土器の様相を良く示す。土製品には、縄文時代中期に発達する立像形土偶、土鈴、耳栓などもあり、硬玉大珠を含む石製装飾品もある。
これらは、縄文時代中期文化の様相、とりわけ中部高地周辺を代表する大規模な集落跡出土品一括として貴重な資料であり、その学術的価値は高い。