90
田園詩
Idyl
1956(昭和31)年
油彩、麻布 130×162cm
oil on canvas
第2回現代日本美術展(佳作賞)
群馬県榛名山麓の田園風物詩に富む静かな里に育った山口薫は、はぐくまれ親しんだ風景や身辺の日常生活から得た心象を、瀟洒な感覚で抒情味豊かに形象化した。明るく湿潤な色感と、柔軟なフォルムで日本の風土的な感性を示す作風を展開し、戦後の美術界で高い坪価を得た。この作品は、彼が好んだ菱形を抽象図形として構成した円熟期の代表作である。緑の中に白や赤、黒などでリリカルに織りなされた菱形の重なりは田園のひろがりのイメージであろう。晴朗な構図の中に恵まれた詩情が自由にのび、画面全体に潤いのある情感が漂う。抽象形式を背景とした清新な抒情をたたえた作品である。「私の国籍が写実にあるのか描象にあるのか私は知らない。或はロマンティズムという方が当ってるかも知れない。然し写実を底に秘めないロマンティズムは頼りないものと思う」と彼がいうように、その表現様式が具象と抽象の紙一重のところにあっても、天性の詩魂と鍛えあげた造形の力量は画面に安定し、少しのゆるぎもない。