円盤状の低い高台を有し口縁部が外反する本体に、中位に突帯を有し下端が大きく開いた脚の付く型式の杯である。銅の比率の高い柔らかい青銅を用い、鋳造後、旋盤で仕上げ、鏨で紋様を打刻し、さらに鍍金をして仕上げている。紋様は細かい楔形の鏨痕を列ねた蹴り彫りの線で表され、その間は小円形の打痕を隣接して並べた魚子地となっている。杯の本体は、口縁部のやや下に巡らした低い隆線と、下部に巡らせた2条の沈線によって上下3つの文様帯に分けられており、上の文様帯には唐草文が、中の文様帯には葡萄唐草文と4羽の蔓を咥えた顧首のオウムが、下に文様帯には中の文様帯と同じ型式の葡萄唐草文が、それぞれ刻されている。そして、盤状の高台の側面には魚子で埋めた三角形を並べ、その下面にはやや崩れた花文が、脚の突帯には円文が、脚の突帯より下にはパルメット状の唐草文が、それぞれ飾られている。実年代のわかる類例には、陝西省臨潼県新豊鎮慶山寺址の開元29年(741)に再建された塔の舎利安置室内出土例がある。慶山寺出土例は、本例よりも魚子地や蹴り彫りが略化しており、本例の製作がやや遡ると考えられるので、本例の製作は、8世紀前葉とできよう。