年未詳四月二十二日付 前田利長書状(宛所不明) ねんみしょうしがつにじゅうににちづけ まえだとしながしょじょう あてどころふめい

歴史資料/書跡・典籍/古文書 文書・書籍 / 江戸

  • 前田利長  (1562~1614)
  • まえだとしなが
  • 富山県高岡市
  • 慶長7~9年頃 / 1602~04年頃
  • 紙本・継紙・墨書
  • 縦18.0㎝×横105.7㎝
  • 1
  • 富山県高岡市古城1-5
  • 資料番号 1-01-229
  • 高岡市蔵(高岡市立博物館保管)

 加賀前田家2代当主で高岡開町の祖・前田利長の書状である。
 宛先はスレが激しく判読は困難である(澄□法□か?)。若年の「お犬(犬千代)」(3代前田利常)の側にいる者(宛先の人物。医者か?)から、利常の「虫気」(※1)の病気が少し良くなったという手紙に対する返事である。
 内容は意訳すると、「書状の内容、確かに見ました。お犬の病気が、関係者の尽力で少し良くなったということで、何より満足しました。(さらなる療養のため)どのようにでも最善の方法によるように、宗佳(医者か)などに相談して、完治するように(治療は)あなたに任せます。なお近日中に状況(治療方針など)などを、私が承ることにします。」
 年代は利常が「お犬」を称した年代から、慶長7年(1602)以降、同9年(1604)までと推定できる(※2)
 前田利長発給文書の情報を1,600通以上掲載した大西泰正氏編の目録(※3)を見ても、本史料は見当たらず、新発見の可能性が高い。更に、『前田利常略伝』をはじめ利常に関する諸書(※4)を見ても、利常が若年時に「虫気」を患ったという記述はなく、これも新発見といえよう。
 また、本史料の利長の花押は大西泰正氏によると、「C型」であり、慶長7年(1602)9月1日から同15年(1610)8月12日の使用年代であるという(※5)
 形態は継紙だが、元はおそらく折紙であったものが後世、分断され、継紙にされたものと思われる(10行目の後のほぼ中心に継ぎ目あり)。
 状態は全体にヤケが激しく、シミ・スレもみられる。
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【釈文】
書状之通、慥見
申候、お犬虫気之   
儀、おの〱情ニ
入候ゆへ、少験之 
由、何ゟ満足申候、
いか様にもよき
様ニ宗佳なとへ
相談□□、本復候
やうに任意申候、
猶近々我等可
承候、謹言、

   肥前守
 卯月廿二日利長(花押)

 澄□(教カ)法□(橋カ)
    □□□(御返事カ)

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【注】
※1 虫気(むしけ)
 腹痛を伴う腹部の病気の総称。古くは、腹中にすむ三尸(さんし)の虫によって起こると信じられた。

※2 推定年代について
 利常(1594~1658)が「お犬(犬千代)」を称する年代。利常は幼名・猿千代、越中守山城(高岡市)で利長の姉・幸と城代・前田長種夫妻に養育された。慶長6年(1601)9月、兄利長の後継者となることが公表されて金沢城に入り、名を犬千代と改め、諱を利光と称し、徳川秀忠の二女珠姫を迎えて婚儀を挙げた。同10年(1605)4月8日、犬千代は江戸城において元服。従四位下侍従兼筑前守に叙任し、松平姓が下賜された。よって、「お犬」である年代は慶長7年(1602)以降、同9年(1604)までとなる(本書状は4月22日付であるので、9月に犬千代となった慶長6年は無い。また4月8日に元服した慶長10年以前となる)。

※3 大西泰正編「前田利長発給文書目録稿」(同編『前田利家・利長』戎光祥出版、2016年)に1,431通、同「同(補遺分)」(同「前田利長論」『研究紀要 金沢城研究』第16号、金沢城調査研究所、2018年3月、p7)に139通、及び同「同(補遺分その2)」(同「前田利長の花押について」『研究紀要 金沢城研究』第17号、2019年3月、p80)に33通の合計1,603通が掲載されている。

※4 『前田利常略伝』(財団法人前田育徳会、1958年)。『前田利常展』図録(石川県美術館、1976年)。『加賀藩史料』第壱編(財団法人前田育徳会、1980年復刻版)。見瀬和雄『利家・利長・利常』(北國新聞社、2002年)。野村昭子『名君 前田利常』(北國新聞社出版局、2016年)。更に前田家当主の病気や医者などの研究書の池田仁子『加賀藩社会の医療と暮らし』(桂書房、2019年)にもこの件の記述は見当たらなかった。

※5 大西泰正「前田利長論」『研究紀要 金沢城研究』第16号、金沢城調査研究所、2018年3月、p7。(同「前田利長の花押について」『研究紀要 金沢城研究』第17号、2019年3月、p80)

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