釈迦と騎象普賢・騎獅文殊からなる三尊である。同様の構成になる釈迦三尊は、日本では平安時代後期に末法思想とともに盛行する法華経信仰や十六・十八羅漢信仰のなかで造形が展開された。本作はその美麗な画趣と比較的小品であることから、法華経を受持した貴顕の念持仏として作られた可能性がうかがわれる。繊細な截金文様を駆使し、獅子と白象の動勢を抑えた、美麗で温雅な画面には院政期仏画の趣を残す一方、絵具の色調や面部のバランス、精密な細部描写には鎌倉時代の傾向が示される。釈迦三尊のみを1幅にあらわす作例は日本では鎌倉時代以降にしばしばみられるが、そのほとんどは宋画受容が顕著で、13世紀半ば以降のものである。そのなかにあって本作は13世紀後半には下らない古例として重要視される。制作当初の姿をよくとどめ、後世の補加筆が少ないことも特記される。