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O夫人坐像
Portrait of Mrs. O
1953年
紙本彩色・額 129.0×103.0cm
幼少から筆に親しみ、若い頃、雑誌『白樺』をとおしてセザンヌやゴーギャン、ゴッホなどの後期印象派やマチスに感化された後、大和絵や琳派を学んだ小倉遊亀は、主として日常生活に題材を取り、大胆なデフォルメと澄んだ色調の平面で彼女独自の画面を作り出してきた。第二次大戦後、戦後社会を象徴するような活発な若い女性を描いた後にこの作品に至った。第38回院展に出品されたこの作品は、画家自身が語るように、「それまでのいろいろな迷いの心がふっ切れた」転機の作品である。「石ころでも木でも人間でも何でもね、みんな同じだ」と思えて描けたという。それゆえ「自由ないい形」になった。このことは小倉が、以前絵に迷ったすえ、安田靫彦に、とらわれないこと、初心に帰ることの助言を与えられたり、禅宗の教えから学んだことにも深く関連する。
背景の室内の安定した空間構成のなかに、頭部や座蒲団や置かれた布地の一部はカットされて、人物が大きく前面に描かれている。縫物の手を休めた夫人をそのまま描いたような雰囲気だが、モデルの個性をよくとらえ、身体のデフォルメによる生き生きとした感じが出、さらに生地の色彩と柄が画面に爽やかな印象を与える。現代感覚あふれる人物像で、戦後日本画の肖像画でも特筆に価する作品である。