眼のある風景

油彩画 

靉光 (1907-1946)
アイ−ミツ
昭和13年/1938
油彩・キャンバス・額・1面
102.0×193.5
右下に署名
8回独立展(「風景」) 東京府美術館 1938

34
眼のある風景
Landscape with an Eye
1938年
油彩・麻布 102.0×193.5㎝
戦時体制へと傾斜していく昭和10年代、時代の非常時性が喧伝(けんでん)されるなかで自分の存在を割りきり、あらたな状況を先取りする社会の尖兵たらんとする人々の生活感情にはアクセルがかかっていた。第二の活況期といわれる新興美術運動の盛りあがりも、一面ではあおられた生活感情の現れであった。上京後しばらく、靉光もその波にのみこまれ、精力的にモダニスムを吸収したが、処世に不器用な彼は、非人間化していく社会に合わせて、自分を画家として割りきれず、制作も行きづまって、しだいに自らの存在のうちに沈潜していった。やがて、自虐的なほどの自己否定のなかから、近代化のうちに圧殺されてきた民衆的生活感情に連なるライオンが、存在のシンボルとして連作されたのち、意識的存在を批判する独自のシュルレアリスムに到達したのがこの作品であるといえよう。ここでは、もはや、あらかじめ意識にのぼったシンボルが描写されるのではなく、おそらくはライオン時代の古カンヴァスを塗りつぶしていったのであろうが、自己中心的な解釈を停止した行為のうちに存在者が解体され、むしろ、粘着的な摩擦感をはらんだマティエールに、むきだしの存在そのもののリアリティが現れている。意識的存在を批判する意識下の眼には、それゆえに、観念的な批判にはないリアリティがある。

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