元興寺極楽坊禅室 一棟
元興寺は始め蘇我氏が飛鳥の地に創立したが、奈良遷都とともに都の中に移された。現在では主要伽藍は全く滅びてしまい、僧房の一部だけが残っている。これが極楽房である。禅室はこの僧房の後身であって、鎌倉時代前期に再建されたが、この時は奈良時代の古材を転用しつつ、大仏様を加味して建てられた。細長い矩形平面であるが、桁行、梁間とも四間である。このため桁行柱間は非常に広い。それゆえ中に間柱二本を入れて三間に分け、中央間を板扉、両脇間を連子窓としている。これは、僧房の部屋割りから生じた制であるが、また特異な意匠の外観ともなっている。
この禅室は昭和十八年から二十五年にわたる修理工事によって、鎌倉時代僧房の姿に復原され、かつ転用古材から奈良時代僧房の形式まで推定されるに至った。古代における寺院僧房の面影を伝える遺構は数少なく、しかもそのうちで細部にいたるまで形式を知ることができる例として、この禅室は貴重な遺構である。
【引用文献】
『国宝辞典(四)』(便利堂 二〇一九年)