中国における天台宗祖、智顗の画像は、延暦寺を開いた最澄をはじめ、円仁、円珍らの入唐僧によってわが国に請来された。最澄は帰朝に際し、「霊応図」および「説法影」の二図を持ちかえったことが知られている。しかし霊応図は今日までのところその遺例は知られず、説法影については仁和寺本高僧図中に見られるなどいくつかの作例が知られるが、最も流布したのは本図のごとく、頭上に禅鎮を戴いた頭巾をかぶり、両手を膝上に組み瞑目して坐す姿のものである。この種のものでは、延暦寺に、最澄が貞元二十一年(八〇五)に沙門恒巽より記念として贈られた唐本を鎌倉期に転写したものがよく知られているが、本図には、名を明らかにしえないが二高僧が描き加えられ、一層の壮厳さを増している。